2019.11.29

マクガフィンに関して、佐野郷子さん、ジェーン・スーさんが原稿を書いてくれました。

岡村靖幸さらにライムスター。
4人の刺客が放つ「マクガフィン」の衝撃。
岡村靖幸とライムスター、ではなく、岡村靖幸さらにライムスター。
このユニット名がすでに物語っていると思うのだ。
この組み合わせがどれだけのインパクトと相乗効果があるかということを。
10月に行われた岡村靖幸のZepp Diver City公演で「マクガフィン」が“宇宙初披露”されたときの異様なまでオーディエンスの熱狂。
それは両者が共有するファンクネスが瞬く間にライヴ空間を満たしたこの上なくエキサイティングな時間でもあった。
1986年のデビュー以来、ファンクを基調とするサウンドと唯一無二の独創的な言葉で数多くの名曲を生んできた岡村靖幸。
片や日本のヒップホップを開拓、牽引し続け、今年結成30周年を迎えるライムスター。
独自の音と言葉を紡ぎだすために切磋琢磨しながら長いキャリアを積んできた両者が、互いに“リスペクトありき”でがっぷり四つに組んだ共作「マクガフィン」が誕生した。
映画通の宇多丸が提案したサスペンスやスパイ映画で多用される用語“マクガフィン”をテーマに、宇多丸、Mummy-D、岡村靖幸が作詞を、作曲/プロデュースは岡村が手がけ、DJ JINがターンテーブルで参加。
ミステリアスなストーリーの中をカメラがスイッチングするようにリズミカルに刻んでゆくリリックも斬新だが、Mummy-Dはライムスター史上でも“最難関級”のスキルを披露。
そこに恋愛の駆け引きをメタファーにして絡めた歌で岡村が登場、〈がってんしょうちな〉のサビでポップに転換させる技はまぎれもなく岡村ワールドでもある。
そんな両者の熟練とスリリングな曲の展開に濃密なトラックが絶妙に交わり、目眩がしそうなほど刺激的な作品を上げてきたのだから恐るべし。
これまでジャンルの枠を超えて多くの客演を重ねてきたライムスターだが、岡村のつくるどこか密室的で妖しい香りを漂わせるトラックがここまでハマるとは正直驚いた。
この抜群の相性の良さは、80's、90'sを通して彼らが吸収してきたファンクが根っこにあることに加え、両者が実はそう遠くない場所でグルーヴやライムの探求に果敢に挑んできたからこそ生まれたものに違いない。
岡村靖幸とライムスターの邂逅がいかに必然的であったか、それがなぜ「岡村靖幸さらにライムスター」と名付けられたのか、この曲からはっきり読み取ることができるのではないだろうか。
映画『レザボア・ドッグス』さながらに黒いスーツに身を包んだ4人の刺客が放つ「マクガフィン」は、成熟したタフな男たちのヒストリーを「さらに」鮮やかに彩るエポック・メイキングな曲になるはずだ。

佐野郷子


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動悸、息切れ、さらにめまい。
これは、一癖も二癖もあるスター総出演のサスペンス・ムービー。
フロウ&旋律から耳のなかへと絶え間なく滴り落ちる、とびきりな男たちの濃厚なエロチシズム。
彼らは手加減を知らない。
四方八方から飛んでくる音に体をつつかれ、内腿に力が入る。
まるで、耳が全身の反射区になったよう。
男たちはとっくに気付いている。
女スパイは、彼らを苦しめるマクガフィンでしかないことに。
しかし、男たちは気付いていない。
顔が歪むたび、彼らの魅力が限界まで引き出されることに。
スクリーンの前に座る私たちは、翻弄され深まっていく男たちのボンディングを、爪を噛みながら眺めるしか術がない。
彼らが手を組むなんて、誰が想像しただろう。
DAMN!嘆きともあえぎともつかぬ声を漏らすのは、スパイ・ガールを追う男たちに限ったことじゃない。
『マクガフィン』は、エンドロールで流れるのにふさわしい。
ようやく席を立ち映画館を出たあとも、ずっと頭のなかで鳴り響いているような曲。
リピートするたびに頬が赤く染まり、動悸が激しくなる。
彼らを夢中にさせるなんて、スパイ・ガールはどれほど特別なスマイルの持ち主なのか。
他の女に夢中な男に惚れたって、ろくなことにならないことはわかっている。
けれど、「もう正しさだけじゃ生きてゆけない」のだ。
ヘッドフォンで聴くのは、三度目からにした方がいいかもしれない。
必ず椅子に座っておくこと。
動悸、息切れ、さらにめまいで、立っていられなくなるだろうから。

でも、これも罠なんでしょう?

ジェーン・スー